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  • サイエンスアゴラ2021「ゲノム編集トマトから考える食の未来」

    2021年11月3日、オンラインで、サイエンスアゴラ2021ワークショップ「ゲノム編集トマトから考える食の未来」を、「ゲノム編集の未来を考える会」とくらしとバイオプラザ21の共催で開催しました。
    冒頭、大阪府立大学 小泉望さんから、本ワークショップは、ゲノム編集技術でつくられたトマトを例にとって、ゲノム編集食品をめぐるリスクコミュニケーションなどを参考にしながら、「自分にとっての未来の食のあり方」をグループで話し合い、発表することを目的としていることが説明されました。

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    山口夕さんの話題提供

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    田中豊さんの話題提供

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    住吉美奈子さんの話題提供

    「ゲノム編集食品はどう受け止められているか」

    大阪府立大学  山口夕さん

    2019年 東大の調査では、3-4割が「ゲノム編集食品を食べたくない」と回答した。メディアはこれを否定的と評価したが、私個人は消費者は冷静だと思った。遺伝子組換え食品への消費者のネガティブなイメージも減ってきているようだ。若い人たちにそういう減少傾向が強いように思っている。その理由として、若い人は食への関心も低いのかもしれないし、生物の授業で遺伝子やDNAになじみがあるのかもしれない。
    その背景には、2003年、食品安全基本法ができて食品安全委員会が設置され、生協や公衆衛生の関係者の活動が実り、食品安全行政への信頼度が高まっていることがあるのではないか。やはり、食品安全行政への信頼を高めることが肝要だと思う。そして、情報を更新し続け、伝え続けることが大事ではないか。なんとなく安心を思う人を増やしていきたい。
    ゲノム編集のコミュニケーションをみていると冷静なコミュニケーションが行われていると思う。ゲノム編集の技術の説明は難しく、ルールも複雑。食の基本が理解されていない現状では、ゲノム編集食品の説明は難しい。組換えが悪くてゲノム編集はよいという説明も間違っている。
    では、どのように伝えればいいのか。一般に、技術者や研究者の説明は、熱意を伝えるのにはよいが、詳細になりがち。その点、生協の理事さんや企業の広報担当が、研究者との間に立つのがいいのではないか。研究者と消費者を仲介するコミュニケーター自身が納得して伝える力は強いと思う。

    「ゲノム編集技術の考え方を心理モデルから考える」

    大阪学院大学 田中豊さん

    リスク認知とは、人間に特有なリスク推定の認知プロセスや、その推理結果のこと。専門家と一般市民ではリスクの認知には開きがある。ゲノム編集食品ではリスク認知が過大に認知される傾向があることが分かっている。
    科学技術の成果を活かしていくためには、受容を決める心理的要因を突き止めることが重要。そこで、ゲノム編集技術に関する説明を聞いた参加者の意見をもとに、ゲノム編集技術の受容につながる因子として、ベネフィット認知、リスク認知、信頼、不安、怒り、信頼、生命倫理観の7つを決めた。心理実験(アンケート、ディスカッション)の結果をもとに、因子の具体的な内容についてもまとめた。それらをもとに心理モデルを組み立てて、7つの因子の因果関係やつながりを解明した。この内容は、ゲノム編集に関するアンケートの設計や説明資料作成に役立つと考えている。
    私の研究は、ものごとにはリスクとベネフィットの両方があり、リスクに対する考え方を知ってもらい、リスクリテラシーを醸成すること。リスクリテラシーを身に着け、不安を感じても立ち止まり、リスクやベネフィットについて考え行動できることは、現代の良識ある市民の資質のひとつだと思っている。

    「ゲノム編集トマトが創るネットワーク」

    サナテックシード株式会社 住吉美奈子さん

    日本は高齢化が進む中、日ごろの食事から健康維持が大事だという考えに基づき、GABAを多く含むトマト「シシリアンルージュハイギャバ」を作ることにした。ゲノム編集技術を使って、甘味や酸味は変わらず、GABAが5倍くらいのトマトができあがった。食品安全性、環境影響評価、外来遺伝子が残存していないことを確認して、食品、環境、飼料としての届出を行い、これらが受理された。
    受理されたのち、プロシューマー(家庭菜園をしているような、生産者であり、消費者である人を表す造語)を対象に苗と肥料を希望者に配布した。5000人が応募し、4000名余に苗と肥料を提供。そのうちの1200名の有志が、ライングループでのコミュニケーションを展開した。ライングループでは、栽培サポート、アンケートなどを行い、共に栽培し、食べて、各人が発信した。毎日、100件以上のやりとりがあり、私たちも事務局として加わった。GABA-1グランプリと言って、GABA含有量のコンテストも実施した。
    これまでは、生産者、流通、販売業者、消費者という流れだったが、シシリアンルージュハイギャバは、種苗会社から消費者にダイレクトにアプローチすることにした。希望する人と双方向でつながる関係を「B to C(ビジネスから消費者へ)」と呼んで取り組んでいる。青果物、ピューレも販売する。

    質疑応答(〇は参加者、→はスピーカーの発言)

    • 心理モデルの研究成果を公表してほしい。
      →生データは公開していないがリスク学会で発表し、書籍を出している(田中)。
    • 「食べ物を人はどう考えているか」から始まるリスコミが重要だと思う。
      →遺伝子組換えも今までの食品もリスクは同じだと説明をしているが、「食べ物を人はどう考えているか」というところからの問いかけも、今後してみたい(山口)。
      →ゲノム編集に特有のこと、遺伝子組換えに特有のことについて、具体的に説明することによる効果、個別の説明による効果をみていきたい。
    • 新規の食べ物の安全性は調べられているか
      →ゲノム編集食品の届出情報は企業秘密を除いて省庁で公開されている(山口)。

    グループワーク

    ブレイクアウトセッションの機能を用い、グループに分かれて、「自分にとっての未来の食のあり方」についてディスカッションを行いました。最後にメインセッションに戻り、グループごとに発表しました。内容は次の通りです。山口さんがポストイット機能を使って、グループの意見を画面で共有しました。

    説明すべき内容

    • いろいろな立場の人がいるので「ゲノム編集技術の必要性」「危険性の評価」「そもそも食べ物をどのようにとらえているか」「育種の背景」「長期利用の食品の歴史」など、幅広い内容の説明が求められる。
    • 申請企業が事前相談の内容を説明すると、安心につながるのではないか。

    遺伝子組換えとの関連性

    • 遺伝子組換えと切り離した解説はよくない。
    • 遺伝子組換え食品が登場したころに提供された情報は十分でなかった。
    • 安全性が審査されている遺伝子組換えの方がゲノム編集より安心な気がする。

    制度に対して

    • 表示によって選べる環境が必要。

    説明するときの悩み

    • キイになる若い人、教員にどのように説明すればいいのか。
    • 科学技術の説明だけでは足りない。
    • かなり先の未来の不安についてはどう説明すればいいのか。

    感想

    • GABAトマトをめぐるライングループの交流は面白く、参加してみて考え方が共有されていたと感じた。
    • SNSより広範囲な情報発信の必要性。
    • コミュニケーターが介在することで理解が進む。
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    最後に食生活ジャーナリストの会 小島正美さんから「3人の話題提供がどれもテーマにふさわしく素晴らしい内容でした」というまとめのことばがありました。

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