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  • コンシューマーズカフェ「ゲノム編集食品の食品衛生上の取扱いについて」

    2022年2月22日、コンシューマーズカフェを開催しました。厚生労働省医薬・生活衛生局 食品基準審査課 新開発食品保健対策室 室長今川正紀氏をお招きし、「ゲノム編集食品の食品衛生上の取扱いについて」というタイトルでお話をいただきました。主な内容はゲノム編集食品が上市される前に行われたルール作りの議論、ことに後代育種、ゲノム編集魚をめぐる話し合いについてでした。なお、講師の希望で、参加者全員参加の意見交換を行いました。アンケートでは、いろいろな立場から発言できたこと、いろいろな意見を聞けたことにより、満足度が高かったことがわかりました。

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    今川正紀氏のお話

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    くらしとバイオプラザ21より配信

    主なお話の内容

    1. ゲノム編集食品の食品衛生上の取扱い

    私たちはゲノム編集、放射線、薬剤など、いろいろな方法で遺伝子に変化を起こして(変異を入れる)、新しい品種をつくってきた。ゲノム編集、遺伝子組換え以外の従来育種で作られた食品には、特段の規制はない。
    ゲノム編集では、配列の一部の欠失・置換、挿入が起こる。外来遺伝子が入ると、遺伝子組換えが起こったことになるので、諮問が必要だが、外来遺伝子が存在しないときは任意の諮問が必要となる。そこで、届出制にして、公表することになった。ゲノム編集技術応用食品として届出を行った旨の公表がなされた品種及び組換えDNA技術応用食品として、その安全性の審査を経た旨の公表がなされた品種がともに公表されている。
    個人的にはゲノム編集によって、毒をなくすものには慎重な議論をした方がいいかもしれないと思っている。

    2. 特に慎重に議論したこと

    今日は、ゲノム編集技術の中でも特に慎重に議論した、後代育種とゲノム編集魚での議論を紹介したい。
    (1) 後代交配種
    議論の進め方
    2021年9-12月、審議会調査会で議論した。前提は広く誰もが聴ける場で行う、わかりやすくする、専門家だけの議論にしないの3点として進めた。そこで、食品衛生分科会の委員である、日生協の二村委員と生協連の浦郷委員のおふたりに議論に加わってもらった。
    ゲノム編集は従来育種と同じだと広く理解されたが、選びたい気持ちの担保が必要。従来育種と同じだからと言って、強い規制はできない。どうやって規制していくかの話し合いは難しかった。
    ゲノム編集の後代交配種とは、ゲノム編集をしたものと従来品種のかけあわせたものをさす。遺伝子組換えの後代育種は、出来上がった遺伝子組換え体と組み合わせて交配でできたもののことをいう。
    当時はトマトをイメージして議論していた。ゲノム編集技術を施した当代は、初めは遺伝子組換え体にあたるが、その後に2-3代を経て届出をする。届けられたもので外来遺伝子がないことが確認できると、従来育種したものと変わらない位置づけになり、販売できるようになる。その後、さらにかけあわせていろいろな市場流通品ができていく。
    後代交配種で届出は必要か。一度届出が受理されると、後代の追跡は難しい。困難を超えてまでトレースする必要があるか。従来育種と区別できないなら、本来は届け出も不要なものである。

    後代育種の安全性
    後代交配種の安全性は、従来育種でできたものと同じなので、従来の食品と同程度の安全性が確保されているといえる。従来の食品の安全性は調べなくても安全が認められているのだから、ゲノム編集に事前相談と届出情報があれば安全上に問題はない。
    後代育種でできたものの表示は、食品衛生法で定める表示とは別ものとして整理されるべき。そういう情報伝達が難しいことは消費者も厚労省もわかっている。4回の議論の3回目で、すでにこの結論に達していた。しかし、加わった消費者の立場の委員、お二人から急がない方がいいといわれ、私も考えたいと思い、4回目を開催した。内部検討とヒヤリングをして3回目で得られた結論からは変化はなかったが、第3、4回で行ったヒヤリングは有意義だったと思っている。

    後代育種の今後
    後代育種の今後は、事前相談と届出をしっかりしてもらい、リスクコミュニケーションもしっかり行う。新しい知見が得られたら見直しは当然必要だと思っている。
    こうして、4回目に了解を得、後代交配種に届出は求めないことが決まった。消費者の代表のお二人が真っ先に了解してくれた。お二人が科学的な議論に入ってくれたこと、いろいろな意見をもつ多様な消費者団体との関わりを持ちながら議論することを了承してくれたこと、おふたりには本当に助けられたと思う。

    伝え方
    食品衛生には10人には10通りの意見があるはず。科学的議論を展開し、選ぶかどうかは個人の意見に依存する。遺伝子組換えのときのリスコミに比べて、ゲノム編集は軟着陸できたのではないだろうか。
    食生活ジャーナリストの会、食の安全と安心を科学する会などがわかりやすく発信してくれていることが大きかった。このような状況は遺伝子組換えの時と違う。食品安全委員会や厚労省は発信が下手だが、科学的な情報発信が増えて、理解してくださっている人が増えていると思う。行政としては、事実を事実としてうまく伝え、精度としてどうあげていくかが課題。情報をどう広げるかは皆さんに助けてもらい、反対の人の意見も聞いていきたいと考えている。

    (2)魚類の扱い
    調査会では、ゲノム編集技術を用いた魚について、全部で5回議論した。
    「魚の育種は植物の育種とは相当違うこと」への理解は、委員を含めて進んでいない状況だった。遺伝子組換えサケはカナダでできているが、日本に来る予定もなく、日本では組換え魚の議論もまだない。そこで、魚の議論をしよう!となった。今回は二村・浦郷両氏と魚の専門家に加わってもらって議論した。

    魚の育種の特徴

    • 育種の歴史が浅い。近畿大で数十年行っているが、品種になっていない。
    • 魚類は有性生殖で受精する。
    • 受精して卵ができ、また受精し、と繰り返すので、どの集団を評価するのか。評価の対象が曖昧。
    • フグのように毒があるケースの評価の議論が必要。
    • 遺伝的多様性は高い。
    • モザイクになりやすい。植物でもモザイクはあるが、動物に特徴的な現象。

    受精卵にゲノム編集でRNAやはさみを導入すると、すぐに分割が始まり、クリスパーが標的の配列を見つけている間に分割してしまい、4分割のひとつだけにゲノム編集が入る。しかし他の3つには間に合わなかったりする。すると4分の1だけにゲノム編集ができたことになる。4分の3は編集されていない。このような状態をモザイクという。
    しかし、その次世代ではゲノム編集が精子や卵子に入っているので、ゲノム編集個体になり、モザイクは世代を超えて伝達されることはない。

    届け出集団をどうやって選ぶか
    植物では、1イベント由来を追っていくので、ひとつの系統が届出集団となり、これが評価対象となる。
    魚類は有性生殖。1系統だけの魚をもって届出集団とみるのは難しい。ゲノム編集魚で調べるのは外来遺伝子が入っていないことの確認。届出る集団はイベント由来ではなく、集団をそろえることにした。

    トラフグの毒をどう考える
    食べられるフグは限られている。部位としては肉、皮、精巣は食べられる。食べられるフグのいる海域も決まっている。もし、毒のないフグを作れても、今の規制は改正しなくてはならない。毒がなくなっても、いつか戻るかもしれないという懸念もある。
    可食部の毒性が従来のフグと同程度であると確認する必要がある。そもそもふぐ毒はテトラトキシンだけではないので、動物実験が必要になる。

    全ゲノムを調べる
    全ゲノム解読は必要か。全ゲノム解析をしても99.9%しかみられない。ということは数十万塩基は読めないという問題が残る。全ゲノム配列を解読できたことで安全性を担保はできない。
    現在は、サザンブロット(特定のDNAを調べる)とPCR(特定のDNA配列を増やして調べる)の組み合わせで調べている。ちなみに、GABAトマトでは全ゲノム配列を調べなくても、必要な情報はそろった。サザンブロットとPCRで確認した後に全ゲノムシーケンスを求めることはルールとして決まってはいない。それでも、マダイとトラフグでは全ゲノ解読を実施してもらった。欠失した塩基数、位置も同じであることが確認された。
    消費者の不安解消に努めるために、事業による情報提供を行っている。厚労省としては、事業者に表示や情報伝達をお願いしていく。

    3.いろいろな意見の聴取して

    魚の議論の後、強硬な反対派と会談したことがある。「ゲノム編集かどうかを知ったうえで選びたい人がいることは分かるが、新しい技術だから全ゲノム解読、動物実験をしてほしい」ということだった。
    そのときに、「自分の子どもに食べさせられるか」と問われた。自分ならどうするだろう。自分の子どもには反対意見と科学的な情報を説明し、子どもに食べるかどうか判断させるのだろうと強く思った。それから、重要な判断の場面で「自分の子どもに食べさせられるか、子どもに選択の余地を与えられるか」と考えるようになった。
    消費者も含めて、いろいろな意見を聴いていいかなければならない。みんなの協力を得て、正しい情報をどこまでも求め、提供し、理解してもらえるようにしたいと思う。

    質疑応答および全員参加の意見交換(〇は参加者、→は講師の発言)

    お話に対する質問の後、参加者全員が自分の疑問や考えを投げかけ、今川氏がひとりひとりに回答したり、意見を述べたり、他の人も横から加わって意見をいったりしました。スピーカーも参加者もとても満足できた意見交換でした。主なポイントは以下の通りです。

    • 従来育種とその安全性の考え方の説明が重要。
    • 後代育種、ゲノム編集魚の議論に消費者団体の方が加わっておられたことを知り、感動した。
    • 海外に日本で作り上げたゲノム編集食品に関するルールや仕組みを知らせるなどして、日本に入ってくるゲノム編集食品についても日本のルールを守ってほしい。
    • 食育が重要。行政を含めていろいろな立場からの発信が必要。
    • 食品の安全性はもちろんだが、食の安定供給、サステナビリティの重要性を伝えていくべき。
    • 遺伝子組換えに対する不安をめぐる議論を行政も進めてほしい。
    • ゲノム編集について、日本ではよい議論ができていたことがわかった。届出制度はよい仕組みだと思う。
    • ゲノム編集食品のトレーサビリティを求める消費者はいるので、今後、このことも検討してほしい。
    • 信用できる政府、草の根のコミュニケーションは本当に有効だと思う。不安を持つ人たちにも小規模な対話の場を有効に使っていくのがよい。
    • 正直に事業をする人が報われるようにしてほしい。
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