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  • TTCバイオカフェ「コケが緑の地球をつくった」

    2022年5月13日、TTCバイオカフェを開きました。お話は東北大学 教授 経塚淳子さんによる「コケが緑の地球をつくった」でした。小さなコケが、太古の海から初めて上陸した生物で、厳しい環境であった地上でどんな戦略をとったのか、経塚さんの植物への尊敬の気持ちと一緒に伝わってきました。

    ※本バイオカフェは国際植物の日のイベントとして、東京テクニカルカレッジ(TTC)と共催で行いました。

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    経塚淳子さん

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    美しいスライド

    主なお話の内容

    1. 植物のおもしろさ


      植物の研究をしていて、「植物は本当にすごいな、面白いな」と思う。森を見上げると枝がぶつかり合わないようにして、植物は日照を分け合ったり、隣の病気をもらないようにしたり、結構、空気を読んでいるようにみえる。これも植物のすごさのひとつ。
      地球上の生物で、ジャイアントセコイヤの3,000年、三春滝桜の1,100年に、寿命で勝るものはいない。切り株からはクローンが生まれるなど、植物は若さを保ったまま生き続けている。これもすごい。
      その理由は植物の幹細胞にある。芽が出たときに植物の幹細胞は根と先端の2か所にしかないが、幹細胞は成長とともに増えていく。例えばヒトでは受精卵の時には幹細胞があって様々な細胞に分化できる万能性を持っているが、分化しながら万能性を失う。
      ロマネスコ(野菜)やカリフラワーを見ると、いくつも中心ができている。この中心が幹細胞。幹細胞ひとつを人間ひとりと考えたら、ロマネスコは1個体の中に複数の人が集合して生きているようなもの。これも植物のすごさ。
    2. ストリゴラクトン


      幹細胞が新しくできることは、枝分かれが生じること。頂芽優性といって、先端の芽が付いている限りは腋芽は伸びず、先端の幹細胞を切ると脇芽がでることがわかっている。この仕組みを利用して、サルビアの脇芽を増やして花を多くつけたり、野菜を多く収穫したりするときに頂芽を切る。
      しかし、先端の芽が付いているときに脇芽の成長を抑制する物質があると考えられていた。2008年、日本チームがその抑制物質がストリゴラクトンであることをつきとめた(私もこのチームメンバーでした)。
      しかし、ストリゴラクトンは1966年に、根寄生植物(ストライガ)の発芽を促す物質として既に見つけられていた。ストリゴラクトンを出すと、ストライガに寄生されるかもしれないのに、なぜ植物はストリゴラクトンを出すのか。
      2005年、AM菌(アーバスキュラー菌根菌)は、植物の出すストリゴラクトンがあると、菌糸を植物の根の中に伸ばし、植物から糖をもらい、植物には土中のリンを提供していることがわかった。AM菌は植物の味方。このことをきっかけに、私はAM菌を利用した有機農業などにも関心を持つようになった。
      リンは植物にとって重要な物質。リンがないと成長せず、リンがあると枝分かれして成長する。一方、植物は生育環境のリンがあるかないかという情報によって今は芽を出したり、成長したりするには適切な時期ではないと判断したりもする。
    3. 植物の進化


      海中の植物が光合成をして酸素を出し、オゾン層をつくってくれたので、生物は太古の海から上陸できた。初めに上陸した生物は植物の藻類(5億年前)、そして節足動物(5-4億年前)、魚類(3.7億年前)と続く。植物が上陸したころの地上は、乾燥し、紫外線が強く、貧栄養(生物の死骸が栄養になるのに、まだ地上には生物がいない)の過酷な環境だった。そこで、4億年前からAM菌との共生を始めたらしい。現在の植物の8割がAM菌と共生している。
      上陸してきた藻類は、見かけが陸上植物に類似していることもありシャジクモの仲間と考えられてきたが、ゲノム解析の結果からアオミドロの仲間らしいことがわかってきて、最も古い地上植物はコケ類。
      コケには蘚類(きれいで園芸につかわれる)、苔類(ゼニゴケなど)、ツノゴケ類の3種類があり、共生をやめた一部の特殊な種類はあるものの、基本的にコケ植物もAM菌と共生している。コケは根がないが、仮根にAM菌の菌糸が入ってきて共生してきた。
      コケが他と分れた後、植物は維管束を持ちシダ類が生まれ、種子をつくる種子植物(裸子植物と花を咲かせる被子植物)に進化していく。80%以上の植物種(コケ植物から被子植物まで)はストリゴラクトンを出してAM菌と共生しているが、ストライガに寄生されるリスクも抱えている。
    4. コケの研究


      ストリゴラクトンを作る遺伝子をノックアウトしたコケを作ったところ、そのコケはAM菌とは共生しなかった。しかし、コケストリゴラクトンを与えるとAM菌と共生した。コケはAM菌に助けてもらってリンはほしいが、できれば糖はあげたくない。そこで、リンのある環境とない環境で比べると、リンがあるときストリゴラクトン合成遺伝子は働かず、リンが不足するとストリゴラクトン合成遺伝子が働いて、ストリゴラクトンを出していた。
      このように、ストリゴラクトンの合成を介して、コケは上陸前の植物の共通祖先の時代から、AM菌とバランスをとりながら生きていた。
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    楽しいお話に拍手する参加者のみなさん

    話し合い

    コケ愛好家の参加もあり活発な発言がありました。

    • 枝が重ならないようにするなら、根もすみ分けているのだろうか
      →土中でもすみ分けている。
    • AM菌と共生しない地上植物の2割はどうしているのか
      →共生にはリスクとベネフィットがある。例えばシロイヌナズナ、アブラナ科の植物は共生していない。マメ科の植物はAM菌だけでなく根粒菌とも共生している。ランにはラン菌がある。
    • 初めての地上植物「クックソニア」の枝分かれはストリゴラクトンに関係しているのか
      →していない。
    • ストリゴラクトンは植物共通か
      →植物によって30種類くらいのストリゴラクトンがある。どの植物のストリゴラクトンでもAM菌は反応する。
    • AM菌はいつから陸地にいたのか
      →植物と同時期に上陸してきたと考えられる。
    • ストリゴラクトンの受容体はいつごろできたのか。ミトコンドリアや葉緑体のように外から微生物が入ってきたのか
      →まだわかっていないこともある。ストリゴラクトンの受容体をもったのは種子植物が進化したころ、そのもとになった受容体は陸上進出のころからあった。
    • 藻類はストリゴラクトンをつくらないのか
      →つくらない。
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