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  • 第17回科学技術ジャーナリスト賞贈呈式開かれる

    2022年6月4日、日本科学技術ジャーナリスト会議により第17回科学ジャーナリスト賞贈呈式が行われ、受賞者に記念の盾が贈呈されました(於 プレスセンター)。
    開会にあたり、元村有希子選考委員長から選考プロセスが説明されました。
    「2016年にこの賞が始まり、今年は17回目。応募数が増え、分野も広がっている。2021年度の候補作品は72作品で、一次選考通過は11作品。4月16日に最終選考会を開き、本日、賞を贈呈する4作品が選ばれた。科学技術ジャーナリスト会議はこの賞を通じて、現実の状況、社会の課題を伝える人たちをサポートしていく」

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    元村有希子委員長 開会のことば

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    受賞者と選考員

    下野新聞「なぜ君は病に~社会的処方」

    下野新聞 健康と社会的処方取材班 代表大塚順一さん

    講評 筑波大学名誉教授 白川英樹 選考委員

    本作品は8部構成で20か月の長期にわたって連載された大作。現代の疾病は貧困、幼少期の週間、家族関係など社会環境が要因になっている。その根本を追求した意欲的な調査に始まり、取り組む医師たちの活動から未来に向けて考えていく、巧みな構成になっている。市民の理解も重要であることを指摘している。

    受賞者のことば

    私たちは栃木県の地方紙(社員数300名)の中で、専従チーム4名で一定期間、深堀りする取り組みを行っている。本連載もそのひとつ。
    2019年、宇都宮で社会的処方に取り組むと聞いたことが始まり。病気の原因の上流に、医師が切り込むのが社会的処方。福祉でなく医療が介在することに意義を感じ、取材・報道してきた。コロナで孤立貧困が注目され、社会的処方に行政も目を向けるようになった背景もあると思う。宇都宮医師会の活動は続いているので、今後も追いかけて報道する。

    書籍「早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか」

    サイエンス作家 中島彰氏

    講評 東京大学名誉教授 村上陽一郎 選考委員

    選考が始まったときからこの書籍をずっと推していた。南部先生(1921―2015)は稀代の天才的物理学者。1905年に生まれた特殊相対論(アインシュタイン)とミクロの量子論を取り持ったのが南部理論。南部理論は難しいが、これ以上に易しく書かれたものはないだろうと思うくらい良く書かれ、膨大なインタビューをもとに、本格的な南部陽一郎評伝になっている。また、日本の理論物理学の栄光が再現されたことにも感銘を受けた。

    受賞者のことば

    書きたいと思った本が売れ、賞も頂き満足している。2010年にヒッグス理論の本を書いていた時、南部理論があちこちに登場した。そこで、原稿をリライトして南部先生の章「予言者南部の物語」とした。これがこの本の原点。
    印象的だったのは、南部チルドレンは皆、南部先生を敬愛しており、インタビューに協力的だったこと。南部先生のお人柄に支えられて、この本が書けたのだと思う。

    「ネアンデルタール人は核の夢をみるか~“核のゴミ”と科学と民主主義」

    北海道放送報道部 デスク 山﨑裕侍さん

    講評 科学技術国際交流センター会長 相澤益男 選考委員

    核のゴミの最終処理の問題は誰も避けられないことだが、とても難しい問題でもある。地方局が現場に密着・取材して仕上げたことに対し、選考会の評価は一致していた。一方、このタイトルに疑問を持った人も多かった。
    処理場の場所の問題を科学で扱い、地元との合意形成(選挙)を民主主義で扱っている。長いスパンで地質学的にみたときの地層の安定性(10万年)において、日本の国土で適しているのは南鳥島近辺のみとする調査研究結果も紹介されている。しかし、原子力発電環境整備機構(NUMO)はこれには答えていない。後半に出てくる町長選の争点は地元経済に終始し、町だけで解決できない問題であることが浮き彫りになっている。

    受賞者のことば

    本作は、4つの1時間の番組の中の3つ目の作品。タイトルの由来は、10万年を表すシンボルとしてネアンデルタール人とした。
    国の政策は、事実や科学を根拠に決めていくのが民主主義だと思う。富津町の地質の安全性が危ういことを無視するような、市や国の態度はどういうことだろう。外部から乗り込んで来て反対するのでなく、地元が取り組むべき問題。今回は科学者が住民の中に入り、共に学んだ。この受賞の喜びを住民と科学者とともに分かち合いたい。
    あまり知られたくないことを、難しい言葉でごまかすことはよくあったと思うが、科学の対立を翻訳するのはメディアの役割だと思っている。

    (大賞)「福島第一原発事故の「真実」」

    NHKメルトダウン取材班代表 近堂靖洋

    講評 東京大学 名誉教授 浅島誠 選考委員

    3月11日から10年間の取材・調査。1500名のインタビューをまとめる難しさ。第一原発はなぜ爆発し、第二はなぜ爆発しなかったか。吉田所長の大奮闘などが描かれている。10年の間に、海水は届いていなかったことや消防の給水がうまくいかなかったことも検証された。冷却装置は40年間使われておらず、うまく働かなかった。アメリカの冷却装置の類似事例の取材は評価できる。原子力の格納庫のハードの欠陥とソフトの不具合があり、極限の危機において核を制御できていなかったことが10年目の真実。
    第一原発の被害もその後遺症も大きいが、第2原発が爆発していたら、東日本が壊滅的状況になっていたかもしれないことも覚えておきたい。
    この本は資料、記録、報告として、今後、利活用されるべきもので、制御の難しい核をどう扱っていくかを考える時、紙媒体として残したことの意義も大きい。

    受賞者のことば

    現場の取材をしてきた。振り返ってみると、現場は決死の覚悟で対応していたのに、科学的な事実との乖離があったことがわかった。冷淡なようだが、これは伝えないといけないと思った。例えば、5年経過後、1号機への消防水は3月23日まで寄与はゼロだったとわかった。吉田所長の英断は冷却に寄与していなかったことになる。
    今、コロナで準備がないまま危機がやってきて、現場の自己犠牲を美化して乗り越えているが、この構図は福島第一原発事故のときと似ている。この事故を10年の節目として、コロナとの相似性の中で検証し、書籍として残したいと思った。今後、事実がわかるとまた事故像は変わっていくことだろう。

    選考会は、仙台で東日本大震災を経験し現場対応にあたられた、東北大学教授 大隅典子 選考委員からのむすびのことばによって閉会しました。

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