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  • ZOOM情報交換会「アニマルウエルフェアは畜産業の危機か?」開かれる。

    ZOOM情報交換会「アニマルウエルフェア(AW)は畜産業の危機か?」が2022年9月16日に開かれました(主催 食の信頼向上をめざす会)。生協、生産者、専門誌メディアの3者による話題提供がありました。農作物に比べて、私たちは畜産については知らないことが多く、耳慣れないAWのこと、AWが政治的・経済的に畜産業に影響していることがわかり、初めて知って驚くことがたくさんありました。

    話題提供 「アニマルアフェアは畜産業の危機か?」

    エフコープ 品質保証推進スタッフ 井ノ上誠さん

    はじめに

    1964年、「アニマルマシーン」が出版された。当時の家畜の飼育環境が劣悪であったことが書かれていて、すぐに政府が動き、飼育動物の飢餓、不快、苦痛、恐怖、正常な行動の抑制を禁止する「家畜の5つの自由」が定められた。
    日本では、第2次世界大戦後、「畜産」が管理されて行われるようになり、実際に生産が安定したのは2000年以降。日本の畜産の歴史は浅い。過激な動物愛護運動も第二次世界大戦以降、始まった。

    アニマルウエルフェア(AW)と動物愛護のちがい

    動物愛護は、動物を好きか嫌いかという感情をもとにしているが、AWは科学的に家畜の行動を管理するための仕組み。日本では目的の達成に支障を及ぼさない範囲で奨励している。今日の話は家畜であるミツバチを含まない。また昆虫、魚介類の話もしない。

    国内外のAWの動き

    欧州では動物愛護の方向で動いており、肉屋の焼き討ちもある。オーストラリア、イタリアでは、魚介類を生きたまま焼いたりゆでたりしたら罰金刑。
    環境上の問題としても、牛のゲップは1頭が200-600リットルのメタンを出し、畜産は環境への脅威と捉えられ、植物食が推奨されている。国連は2006年、ESG(環境、社会、企業統治)を踏まえた投資を奨励している(責任投資原則)。ESG投資にはAWが含まれており、世界投資の4割くらいがESG投資。
    日本ハムは海外での取引も多く、アニマルウエルフェアポリシーを発表した。
    日本の農政で見ると、「農の食料システム戦略」で科学的知見を踏まえたアニマルウエルフェアの向上を目指すとしているが、多くは記載されていない。

    AWをどう考えるのか

    AWとは、家畜の健康状態を把握し、健康に保つことではないか。設備投資だけでなく、日々の観察に基づく健康・衛生管理が基本だと思う。
    例えば、鶏は放し飼いにすると仲間をつついてけがをさせ、殺してしまうことがあり、長生きするのはブロイラーの方。一方、放し飼い、飼料への無添加、遺伝子組換え飼料不使用、薬剤不投与、無洗卵をアピールする生産者もあるが、これでは飼育環境の衛生上のリスクが高まるのではないか。
    日本ではAWへの関心は低い。しかし、消費者として、生産者の生活に思いをはせて、偏りのない立場で生産者を応援したいと思う。

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    1頭飼いの飼育状況 (写真提供 アニマル・メディア社 岩田寛史さん)

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    群れ飼う飼育状況 (写真提供 アニマル・メディア社 岩田寛史さん)

    「一人の養豚経営者が捉えるAWと産業として課題」

    ファロスファーム(株) 代表取締役 竹延哲治さん

    ファロスファーム会社概要

    ファロスファームでは1万トンの母豚を保有している(国内トップの日本ハムの母豚は2.7万トン)。養豚は大規模化が進んでいる中、わが社は業界の灯台(ファロス)になれるよう、「病気と闘わない農場づくり」を掲げ、養豚を科学し美味しい豚肉の安定供給を目指す。 日本では1頭生産するのに、平均して390キロの餌を使うが、私たちは300キロ。薬品代(ワクチンを含めて)は400円(日本の平均は1800円)。他にメタン発電で3億円の収入も得ており、環境にも貢献できている。

    AWの国際的なルール

    欧州には長い食肉文化があり、AWの考え方が生まれ、国際獣疫事務局(OIE)が所管している。日本ではOIEの考え(2018)をもとにAWの基準を畜産技術協会が作成した。2022年、農水省はAWの考え方を「飼養管理などに関する指針」としてまとめる方向。

    AWについての考え方

    (1)科学か感情か
    2006年から畜産技術協会で勉強会を開始しているが、日本はAWへの関心が低い。
    2021年11月、日本ハムが2030年までに母豚の1頭飼いから放し飼いを実現すると言って、日本の養豚業界は衝撃を受けた。
    (2)西洋と東洋の宗教観や文化の違い
    欧州では生まれて間もない子豚や子牛を食べる(日本は食べない)が、日本で行う去勢や21日齢の離乳を残酷だという。文化、歴史、宗教、考え方、感じ方には違いがある。
    (3)産業動物と愛玩動物におけるAWの違い
    病気になった個体は苦痛を短くするためにも安楽死させなければならない。日本でも、家畜にとっての良い生涯と安楽死の合理性を法的に定めるべきではないか。
    (4)日本の事故率(死亡率)を減らすべき
    AWとは健康に家畜が生きることで、病死率を下げないで安心安全とは言えないと思う。
    まず、繁殖農場と肥育農場を分離する生産システム(米国など)を日本でも採り入れる。尻尾は他の豚にかまれて怪我や病気の原因になりやすい。断尾せずに一緒に飼育し、子豚の死亡率が20%という所もあると聞くが、飼養環境の衛生は大丈夫だろうか。
    畜産の歴史の浅い日本に、欧州の歴史ある飼育の考え方を急に持ち込むのは、無理があるだろう。
    (5)世界のAWの流れを認識しつつ、豚に愛情を持とう
    養豚業者の意識を向上させ、まず事故率を減らそう。
    5つの自由の解釈は幅広い。飢餓や栄養不良、物理的不快、苦痛や病害などからの自由は科学的に評価ができるが、恐怖、苦悩、疾病からの自由や通常の行動様式を発現する自由を守るには、感情が入り込み解釈は難しい。よくよく考えていかなくてはならない。

    「欧州AWと既存畜産のギャップ」

    (株)アミマル・メディア社 月間ピッグジャーナル 岩田寛史さん

    日本ハムが2030年までに妊娠ストール(人工授精してから100日間、柵の中で1頭飼いをする)廃止を発表し業界は衝撃を受けている。AW対応ができない企業に対する不買運動もありうる。
    農水省は2022年5月、AWに対応する飼養管理指針の原案を公表。

    現場でのAW対応で問題になっていること

    1)新生子豚の管理で、生後1週間以内は余り痛みを感じないとみなされ、歯切り(乳房を傷つけるから)、断尾(かじりあったりして怪我や病気の原因になるから)、去勢(オスの匂いが肉につく)が行われている。スイスでは麻酔下で去勢し、消費者価格へ転嫁している。
    2)飼養方式
    日本では窓のない、ストールという囲いの中での1頭飼いを行い、産後の給餌管理、上・横から観察して個体を管理している。欧州ではフリーストールといって群飼が広がっている。
    3)飼養空間
    妊娠豚の1頭飼い管理ができない場合は、ブタのICチップでコントロール給餌を行う。喧嘩や病気のまん延を防げるような十分な広さも必要。

    まとめ

    家畜は、紀元前8000年に猪を飼いならして始まった。植物が枯れる冬場の、人類の栄養確保のために畜産は必要だった。
    日本の豚肉自給率は50%。豚熱、アフリカ豚熱があり、放牧養豚だと感染症管理は難しくなる。日本の繁殖農場でストール飼いができなくなると、飼育できる頭数は4割減に、国産豚肉の生産量は2割減る。消費者の国産豚肉を求める声には応えられなくなる可能性もある。
    農水省のガイドラインで放牧規制強化を図ったが、パブコメで撤回されられた。
    フリーストールの場合、家畜のし尿は、欧州なら畑に散布するが、日本は狭くて不可能。フロスファーマでは尿を浄化して河川に出し、糞は水分を減らして堆肥にしている。日本でよく行われている、「おがこ」にし尿に付着させる方法だと豚舎の衛生管理が難しい。
    フリーストールにすると、日本ではコストは確実に高くなる。AWが政治経済的に食肉の差別化に影響しているのも事実。

    質疑応答(〇は参加者、→はスピーカーの発言)

    • 病気にならない養豚とは
      →環境をきれいにして、外から病原菌を入れない(作業者はシャワーを浴びて、殺菌して入る)を徹底する。薬品代では効果が出ている。
    • 肉のオス臭とは
      →去勢しないと肉にオス臭がするので、外科的去勢を沈痛・麻酔下で行ったり、ホルモンによって性成長を止めたりする(ホルモンに抵抗がある消費者もいる)。オス臭の少ない品種改良も進んでいる。一方、イベリコ豚では、去勢した豚のみを利用するという基準もある。
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