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  • TTCバイオカフェ「植物の力を借りる~『植物と会話』はできるのか」

    TTC(東京テクニカルカレッジ)バイオカフェを開きました(2023年5月12日)。 5月は「国際植物の日」です。今年は東洋大学 山本浩文教授をお招きし、「植物の力を借りる~『植物と会話』はできるのか」というお話をいただきました。

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    山本浩文先生

    主なお話の内容

    1.はじめに

    私の家庭菜園が近所の猫に荒らされるので、マタタビの葉を利用してみた。確かに効果はあった。マタタビの成分は蚊を寄せ付けなくする成分を持っているため、猫はマタタビの匂いを体について蚊を回避しているのだそうだ。動物生薬学では、いろいろな動物が植物をセルメディケーションのために利用していることが解明されている。
    人間も同じで、紀元前1500年前からメソポタミヤのシュメール人、エジプト人は植物で病気を癒していた。アジアでは、紀元22-250年には中国で本草神農経に、薬草の効果について記されている。
    今でも葛根湯のような漢方薬として様々な植物が使われている。また、ニチニチソウのピンクリスチン、ハッカのメントール、ハシリドコロのスコポラミンなどが植物から精製された医薬品として使われている。
    香辛料でも植物は使われていている。滋養強壮のニンニク、鎮静効果があるシソやタイム。これらの香りで食欲を増進し、胃の活動を活発にする。
    お茶、コーヒー、チョコレートのような嗜好品も植物由来。
    染料の紫は、ムラサキという植物からとれる色素なので、この色は「むらさき」と名付けられた。今は合成染料が広く使われているが、染料の始まりも植物だった。アカネの地下部、ベニバナの花も染料になる。

    2.植物の利用

    私たちは植物をいろいろな場面で利用している。

    • 食品として:光合成でつくった有機物を頂いている。植物の同化能力を利用している。
    • 住居で:植物は体を支えるために細胞壁や液胞をもっている。リグニンを利用。
    • 衣類として:植物のセルロースを利用
    • 環境浄化で:植物の環境浄化能力
    • 医薬品として:二次代謝産物を利用。

    地球上に酸素を作ってくれているのも植物ということになるが、そもそも酸素は植物にとって毒だから排出していた。 こうしてみてくると、我々の持っていないものを植物からいただいている。それでは、植物からいただいているものは、植物にとってどんなものなのだろうか。

    • 同化能力では、植物が体をつくるため有機物を合成している。
    • 植物体は細胞壁、液胞で構成され、植物体を支える。より高くなって光を得たり、根を深く張ったりすることで土壌から水や栄養を得る。
    • 環境浄化能力は、環境中の無機物を取り込んで有機物をつくる働きそのものであり、私たちが利用している植物の多様な能力は植物の生きざまそのものといえる。

    医薬品や香辛料など、我々が利用している植物の二次代謝産物は、「動く」ことを行わない植物にとって、生態系への適応、環境ストレスへの抵抗性、他の生物との相互作用に役立っている。

    3.環境ストレスへの対応

    シロイヌナズナは、染色体が2本で世代交代が早く、モデル植物として研究で広く利用されている。いろいろな突然変異体も得られている。
    紫外線の一種であるUVBは、植物の生育を阻害する。突然変異を起こしたシロイヌナズナには野生株よりも紫外線に対する抵抗性が高いUVB耐性株が存在する。野生株と耐性株が作っている二次代謝産物を比較すると、UVB耐性株は野生株より大量の紫外線吸収物質を生産しており、これらの化合物がUVBを吸収することによってシロイヌナズナを守っていることがわかった。これらの化学物質の化学構造も明らかにされ、また、活性酸素や水ストレス(乾燥)に対してもこれらの化合物が防御物質として機能していることも明らかにされた。

    4.競争に勝つための化学物質

    植物は独立栄養生物だから、従属栄養生物に食べられる。食べられないように、摂食阻害物質(毒、苦味など)を出している。病原菌を殺す成分を出すこともある。
    また、植物は移動できなくても子孫を残したいので、繁殖のために他の生物との相互作用が必要になり、花粉を運んでもらうために虫を呼び込む。こういう時に二次代謝産物が活躍する。
    セイタカアワダチソウは根からアレロケミカルをだして他の生物の発根を阻害。ヒマワリも他の植物の生育を阻害する。クルミの木の下には草が生えないが、これは葉から出る化合物が土に溶け出して、雑草の生育を阻害している。アカクローバーは他の植物の種子発芽を抑制する物質を放出するが、この化合物がたまりすぎると、自身も生育できず、忌地(いやち)現象が起きてしまう。
    セイタカアワダチソウは日本に入ってきたときはどんどん増えた。そしてススキがなくなった。これは、セイタカアワダチソウがアレロケミカルを出していたからだが、現在ではセイタカアワダチソウはこの物質を出し過ぎて自家中毒で枯れてしまい、ススキが盛り返してきている。
    セイヨウジュウニヒトエは、幼虫(イモムシ、毛虫)の脱皮を誘発する物質を出す。幼虫は成長の過程で脱皮を繰りかえすことによって生育していく。ところがセイヨウジュウニヒトエを食べると、成長する前に脱皮してしまい、大きくなれずに死んでしまう。結果的にセイヨウジュウニヒトエは虫に食べられない。
    ジャスモン酸、サリチル酸メチル(抵抗性に関わる植物ホルモン)はすべての植物が出す。トマトには「みどりの香り」がある。これはハスモンヨウに食べられたトマトが出す揮発成分。これを食べられていないトマトにかけると、揮発成分を出すようになり幼虫の成長を抑制して殺してしまう。また、ジャスモン酸メチルをかけられたトマトは阻害物質を作るため、芋虫はトマトを食べることができず共食いをしてしまう。揮発成分をつくったトマトはおいしくない。これはある意味で、植物と昆虫のコミュニケーションといえるかもしれない。
    セイタカアワダチソウを刈り取ってダイズ畑においていたら、虫食いがへったという報告がある。セイタカアワダチソウが揮発成分を出していた。そして、大豆のイソフラボンが増えていた。これは植物同士が助け合っている事例で「植物の安保同盟」といえる。
    唐辛子の辛み成分はカプサイシン。ヒトの口の中の熱刺激を感知する受容体にカプサイシンがくっつくと痛みになる。サルやイノシシは同じ理由で唐辛子の辛みをいやがるので、農作物に唐辛子の粉末をかけて食害を防ぐという方法がある。ところが、鳥には辛味受容体がないので、カプサイシンを食べても辛かったり、痛かったりしない。鳥は種を食べても噛まずに排泄する。唐辛子の種は鳥によって遠いところまで運ばれる。
    マメ科植物は窒素が足りないとフラボノイドを根から放出する。すると、根粒菌が集まってくる。マメ科植物の根に入り込んだ根粒菌は、同じフラボノイドによって遺伝子が発現して、組織内に根粒を形成する。根の中で共生している根粒菌は大気中の窒素を取り込んでアンモニアに変え、植物はこれを窒素源として利用する。ハーバー・ボッシュ法でアンモニアをつくるときには高圧高温にしなくてはならない。根粒菌はずっと省エネでアンモニアを合成している。
    ムラサキが生産するシコニンは糸状菌の生育を阻害する。また、コンパニオンプランツとして利用されるマリーゴルドは線虫を駆除する物質を出している。

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    ベルベリンの研究

    5.化学物質の合成経路

    植物は20-40万種あると言われている。ひとつの種に特異的な二次代謝産物は4.7個あると考えられている。植物のつくる化合物は100万種くらいあり、2-3万種くらいが解析されている。
    植物がひとつの化合物をつくるとき、17-18個以上の酵素を用いた複雑な合成系が働いている。それらの化合物は細胞の中のいろいろな小器官で生合成される。その経路のどこか一か所が切れても、目的の物質はつくれなくなる。
    マラリアの薬であるキニーネに耐性を持つマラリア原虫がでてきて困っていたが、クソニンジンの葉のアルテミシニンが見つかった。さらに合成生物学では、クソニンジンから取り出したたくさんの酵素遺伝子を酵母にいれて、アルテミシニンの原料であるアルテミシニン酸をつくらせた。アルテミシニン酸からアルテミシニンは化学反応で簡単に合成できる。今ではタンク培養でリットル当たり25gのアルテミシニン酸が得られる。
    それでは、植物が作る二次代謝産物はどれでも酵母や大腸菌で作れるのだろうか。たとえ作れても安定に貯蔵できるか。
    微生物への防御物質などは、植物自身にも毒になるので、植物は水溶性物質は液胞に、脂溶性物質は細胞の外の組織に閉じ込めて、自分に害が及ばないようにする。
    オウレンは地下茎に黄色のベルベリンという水溶性物質を貯める。ベルベリンには苦味健胃、抗菌・抗炎症作用がある。ベルベリンはこれを作らない植物細胞に対しても強い毒性を示すが、ベルベリンをつくる植物液胞内にベルベリンを隔離することによって、普通に生活している。
    脂溶性化合物の場合、例えばシソは精油を葉の表面にある「腺鱗(せんりん)」に貯める。大麻も腺毛に油を貯めている。アシタバは茎を切ると黄色い液がでてくる。黄色い液を茎の細胞の隙間の油道(ゆどう)に貯めている。山椒やみかんも果実の皮の柔細胞の外にできた油室に精油をためている。細胞の外に貯蔵するためには、エネルギーを使って運ぶ役目をするタンパク質がある。それは、そのタンパク質をつくる遺伝子があるということ。
    植物にいろいろなものを作ってもらうためには、輸送や蓄積のしくみを明らかにする必要があり、現在盛んに研究がおこなわれている。

    話し合いやアンケートのコメントより

    • 虫食い野菜は虫もたべる良い野菜だといわれたが
      →植物は摂食阻害物質をだしているので、食べない方がいいと思う。
    • 鳥は辛味を感じないというのが面白かった。
    • ハシリドコロは毒草だと思っていたが、薬草だと知って驚いた。
    • 人間が植物の力をつかって有用な物を合成させようとするときに、山本先生が植物の機嫌を損ねないように研究を進めておられる様子がつたわってきた。
    • 植物は何故、二次代謝産物を作るのだろう
      →いろいろな環境の中を生きのびるのに有効な二次代謝産物が今もつくられているのだと思う。
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