くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • 「バイオ燃料検討会」シンポジウム

    2023年6月2日 アメリカ穀物協会主催「バイオ燃料検討会」シンポジウムが開かれました(於 赤坂インターシティコンファレンス)。会場には約100名のメディア、事業者、研究者、行政の方が集まりました。検討会で1年間、カーボンニュートラルの勉強会に参加させていただきましたので、そのまとめといえるシンポジウムについてご報告いたします。

    はじめに

    アメリカ大使館農務部農務官 マリア・ラホスカヤ氏

    私たちは日本の温室効果ガス排出防止に協力しており、1年前、日米の首相は日米のバイオ燃料利用拡大について話し合った。バイオ燃料は新たな開発費が不要で、たとえばトウモロコシから得られるバイオ燃料は実用的、効果的。本検討会では、メディア、研究者などが共に学び、議論したことを報告書で公開すると聞いている。E10自動車の利用、コメからつくるバイオ燃料などの提案に期待している。私たちは日本の皆さんと、地球変動緩和、化石燃料の利用削減を目指すパートナーでありたい。

    写真

    開会 マリア・ラホスカヤ氏 

    写真

    第1部座長 横山伸也氏

    第1部 バイオ燃料を各分野からとらえる

    検討会メンバーが異なる立場から意見を述べる第一部の座長は横山伸也氏でした。

    (1)「バイオエタノールと化石燃料」

    東京大学名誉教授 横山伸也氏

    世界は2050年カーボンニュートラルを目指している。日本はどうやっていくのだろうか。バイオ燃料からは化学製品をつくることができ、航空機や車の液体燃料にも適している。 バイオ燃料利用のためには次世代自動車が必要。新車販売は目標20-30%だが、現状は2%。E10を従来車やハイブリッド車などに使えば、2030年の政府のCO2削減目標値は達成できる。日本の現状はE2以下だから、E10の利用による削減効果は大きい。バイオエタノールはETBE(バイオエタノールからつくる化学物質)に変換せず、直接混合できる利点がある。このような燃料を国産バイオマスからつくりたい。

    (2)「バイオエタノール~カーボンニュートラルと気候変動」

    産業技術総合研究所 坂西欣也氏

    木の繊維はセルロースとヘミセルロースが7割を占めるので、1トンの木から40円/ℓのバイオエタノール製造を目指し、大学や企業と研究してきた。木や草の糖化ができれば、全利用が可能になる。
    バイオマスは、そのまま燃やして発電に使うことが多いが、バイオ燃料にして使うと日照のないときのベース燃料として使える。ジェット燃料(SAF)の開発も進んでいる。稲わら、もみがらなどの農業残渣も利用できる。トウモロコシ、サトウキビ由来のエタノールはあるが、日本はE3までなかなか進まない。全体としては1%程度。直接混合は世界でも広がっている。消費者にもバイオエタノールのメリット、デメリットを理解して使ってもらいたい。

    (3)「バイオ燃料をメディアはどう報じたか」

    コンサルタント 内野尚氏

    メディア記事や出版物の推移の調査を担当し、バイオエタノールを社会はどうとらえてきたかを探り、どんな教訓が得られるか考察した。
    2000年以降、バイオエタノール製造が本格化してきた。「バイオマス日本」などが提言され、機運が高まった。
    2005年 食料対燃料という議論が始まり、バイオエタノールのLCA(Life Cycle Assessment)が検討された。
    2007-8年 バイオエタノール懐疑論もでてきて、冷静な視点がみられるようになった。
    2011年 東日本大震災で発電に関心が高まり、バイオエタノールの影が薄くなる。
    2010年 カーボンニュートラルのための行動が求められ。
    2020年 バイオエタノールの議論が進化してきているのが「今」ではないか。
    官と産の連携、メディアからのわかりやすい発信、消費者の問題意識が高まることが重要。

    (4)「私たち緒生き方とエネルギーの問題」

    くらしとバイオプラザ21 佐々義子

    カーボンニュートラルと言われてもそれは地球規模のことで、一般市民として身近な問題としてはとらえられなかった。この検討会に参加し、日本はどのくらい二酸炭素を排出しているのか、家庭ではどうかなどを調べた。自分たちの世代で、食料とエネルギーの収支は黒字にしなければならないと思うようになった。大切なことは化石燃料を使わないことで、その結果、カーボンニュートラルが実現するのだと思う。そこで、太陽光発電もあるが、日本が得意なコメを利用したバイオ燃料の導入は、一般市民からもそんなに遠くなく、議論を起こしたり情報を共有したりしやすく、カーボンニュートラルにも貢献できる方法ではないかという私なりの結論に達した。

    (5)「次世代のバイオエタノール」

    青森大学名誉教授 見城美枝子氏

    世界中を取材し、食物がないとどんなに悲惨な状況になるかを目の当たりしてきた経験から、食料が安定的に供給され、自立した国でありたいと強く思うようになった。エネルギーも同様に自給率を上げ自立の道を確保すべき時と思う。現在、日本のエネルギー自給率は12%だが、世界のエネルギーをみるとノルウエイの800%、オーストリア、カナダもエネルギーがたっぷりの国もある。しかし、その内訳をみると、バイオエネルギー利用は低い。
    日本もバイオ再生エネルギーなら頑張れそう。
    例えば下水汚泥、農業残渣を活用できないだろうか。取材すると、日本の農業者の減少と高齢化は深刻で利用可能な荒廃地が9万ヘクタールもあった。農業新規参入者も参画できそうなのは、お米バイオエタノールではないかと思う。発酵技術も有望。
    国は食料からの燃料づくりの旗振りをすべき。よいプロジェクトが成功しても続かない実態もあり、エネルギー政策に疑問がのこった。

    (6)「なぜ、日本は『バイオエタノール燃料』で世界から取り残されたのか」

    元毎日新聞記者 小島正美氏

    アメリカ、ブラジルでエタノール車が走っているのに、日本は出遅れてしまった。アメリカはトウモロコシ、ブラジルはサトウキビという自国の基幹産業を活かしてエネルギー政策を進めてきた。
    電気自動車はクリーンというが、充電するときの化石燃料を使っている。ハイブリッド車のプリウスがバイオエタノールで走ったら、電気自動車に遜色ないのではないだろうか。電気自動車に移行する前の良い中継になるではないか。
    日本は水田を100万ヘクタール減反した。水田からコメエタノールをつくり、飢饉になったら食べればいい。ゲノム編集の超多収米を使えば、米の利用促進、カーボンニュートラルなエネルギー、環境負荷軽減、科学リテラシー醸成と一石四鳥!名古屋の中川物産が近くE7ガソリンを売り出すそうだ。これを報道して大きい議論を起こしましょう。

    (7)「バイオ燃料の可能性~市場と産業の創造に向けて」

    宮城大学教授 三石誠司氏

    技術が発展して需要が低迷したらどうするのか。アメリカは中長期政策で回答を出している。アメリカはトウモロコシと大豆が強いが、大豆ではブラジルに抜かれている。
    輸出入を考える時には、誰が輸出し、誰が輸入するかを見ることだ。中国の大豆輸入は世界の6割を占める。ブラジルは現在、大豆を中心に輸出しているが、2030年頃までにはトウモロコシでもアメリカを恒常的に抜くだろう。しかし、アメリカのトウモロコシの飼料としての需要が下がっても、食品・アルコール原材料の需要が増えトータルは変わらない。
    日本はアメリカの飼料を大量に利用してきた。アメリカは戦略穀物であるトウモロコシを、燃料とする政策に変えた。日本の自国の戦略穀物は何か。日本の戦略商品はコメ!良いコメを海外に出して安いコメを食べるのでなく、余剰米をエタノールにすることが重要。

    (8)「日本のエネルギー正確とこれからの方向」

    東京大学名誉教授 本間正義氏

    日本のエネルギー政策を経済の中心資材である米から考える。日本のエネルギーは、石炭→石油→原子力と進んできたが、東日本大震災で後退。エネルギーは時期をみて組み合わせて利用していくべき。
    2002年、エネルギー政策基本法と第6次基本計画ができた。ポイントは次の4つ。
    エネルギーの安定供給(自給率11.2%)、経済効率性(低コスト、AIの導入)、環境への適合(カーボンニュートラル)そして安全性(東日本大震災後、付加された)。化石燃料の利用を減らし再生可能エネルギーを36-38%にしたいところ。これには資源自給率と技術自給率(自国の技術でどれだけエネルギーを供給できるか)が重要。
    本検討会では7割を占める非電力分野のエネルギーについて議論してきた。脱炭素化というと電気自動車が推奨されるが、発電のプロセスで二酸化炭素を排出している。E10をめざし、それを耕作放棄地で栽培したコメを使ったエタノールで賄う。
    400万トンのコメから200万キロリットルのエタノールができている。これでE10の4割をカバーできる。地域活性化、技術革新効率化財政を支援できることを意味する。

    第2部 パネルディスカッション

    初めに本間座長から本報告書で示された次の5つの提言が紹介され、それぞれについて議論した。

    写真

    第2部座長 本間正義氏

    写真

    会場風景

    (提言1)脱炭素に向けた社会的ネットワーク構築

    • 省庁を超え、産官学の溝をうめて、消費者にはわかりやすく伝えることでネットワークができると期待する。
    • 汚泥、廃油を利用したエネルギー利用を支えるネットワークを構築したい。縮む日本の中で「日本から伸びていく姿」を子どもたちにみせ、育てていく。

    (提言2)原料となる素材の研究・利用の拡大

    • 国内にある木質バイオマス(果樹の剪定枝、木材にならない廃材など)を単に燃やすのでなく、エタノールにしたり、ガス化したりして利用。食料対燃料の議論もあるが、全量利用(ホールクロップ)なら、食料にならないしぼりかす、稲わらも使える。食品残渣からの廃油回収もできるし、日本にある資源を有効利用すべき。
    • 九州の食品残渣を使ったプラントではうまくいったのに、国はなぜやめてしまったのか。食料残渣によるバイオエタノールに国は注目すべき。高齢者施設の給食は残渣も多いだろう。残渣の利用がますます重要になるだろう。

    (提言3)自動車燃料のエタノール利用におけるE10の実現

    • 電気自動車がやがては主流になっていくだろうが、E10 は直接混合でき使いやすく、堅実でコストも安い。まずはE10 をめざすべき。2030年でもOECD諸国では、ガソリン車が79%だとの予測もある。
    • 電気自動車は欧米が、エコな日本車に対抗するための戦略ではないか。日本のハイブリッドとバイオエタノールで対抗できるデータがあればメディアがとりあげられると思う。ハイブリッド車でのバイオエタノール利用を本気で進めてほしい。
    • 新潟で米バイオエタノールの実証実験をしている。コメのバイオエタノールの特区を実現してほしい。組換え米も燃料なら消費者受容の問題も少ないだろう。

    (提言4)米を原料とするバイオエタノールの国内生産

    • 世界のコメの貿易量は過去5年間で1,000万トン以上増えているが、日本のコメはローカルに留まっている。日本は、コメの需要が減っているからと減反してよかったのか。コメを生産できる能力という「国内資源」を使わなかった30年間をなんとか取り戻さなくてはならない。
    • 石油からは6000-7000品目のものを作り出せる。アメリカでは、トウモロコシを食料だけでなく、飼料、食品、工業原料と広く利用している。日本の米は大化の改新から1300年間、ずっと「食べ物」だった。私たちは米を使い切れていない。やっと飼料米が認められてきたところ。コメはポテンシャルがある。日本は得意なコメをつくるべき。コメの世界需要が増加中。日本はコメの市場を食料に限定して、チャンスを逃していて残念。
    • 農地維持がいかに大事か!農地の維持は基本のキ。農地維持のため米作り体制維持の重要性を思う。
    • マサイ族の取材をしたときに、米のパンのようなものを食べていた。アフリカの「コシヒカリ」が使われていた。日本の農業者がコメ輸出を考えないなら、国が考えるべき。売れれば作りたい人は多いのに、なぜ稲作をしないのか。ふるさと回帰センター理事長として新しい農業を応援していきたい。
    • 1961年、農業基本法から始まった「上り坂農業」が、食料・農業・農村基本法で飽和した。中間とりまとめでは、「平時からの」食料安全保障が述べられており、これは、これまでの経験を踏まえて我々ひとりひとりが考えることが必要という意味。

    (提言5)意識改革と教育の充実

    • ボトムアップで議論が起こることが有効。1990-2000年、地球温暖化に対して4分の1の有識者は半信半疑だった。今、ストップ温暖化は待ったなしの状況。平時から食糧安保をひとりひとりが考える必要だと個人的に考えている。日本に比べて、欧州のテレビで環境問題を取り上げられることが多いようだ。マスメディアから国民的議論を起こしてほしい。意識改革が大事。
    • 環境負荷がマイバッグ推進(ナイロン袋1枚4円)運動によって見える化した。バイオエタノールによって環境負荷が減ることが消費者からみえるように。
    写真

    結びのことば 浜本哲郎氏

    最後に米国穀物協会 代表 浜本哲郎さんから結びのことばありました。
    トウモロコシをめぐって輸出側も輸入側もWIN-WINが大事だと思い、このメンバーで検討してきた。本報告書は以下で公開されるいる。活用してください。

    参考サイト

    6月2日「バイオ燃料検討会」シンポジウム開催【講演資料、報告書の掲載】– アメリカ穀物協会

    © 2002 Life & Bio plaza 21