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  • ロールプレイをとりいれたワークショップ手法の提案

    「生命の科学 遺伝」5月号(2020年)にくらしとバイオプラザ21が考案・実施してきた、ロールプレイをとりいれたワークショップ手法に関する特別寄稿が掲載されました。具体的には、「ゲノム編集技術を用いて開発されたソラニンの出来にくいジャガイモ(以下、ゲノム編集ジャガイモ)」を利用するかどうかを「生産者」「ポテトサラダ製造販売業者」「学校給食調理人」「消費者」の4つの立場になったつもりで(ロールプレイ)、ゲノム編集技術を異なる視点から考え、より踏み込んで話し合ってみようというもです。この手法に「ステークホルダー会議」と名付け、何度も実施してきました。本稿では次の3回の実績をもとにまとめました。

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    遺伝5月号

    ステークホルダー会議開催までの経緯

    くらしとバイオプラザ21は2013-2018年度「新しい育種技術の社会実装」というプロジェクトのメンバーとして、新しい育種技術の中のゲノム編集に関する情報提供や対話の場づくりとして、約50回のサイエンスカフェを行ってきました。

    バイオカフェ・アーカイブ

    しかし、ゲノム編集技術でつくられた食物がまだ市場に出回っていない現状では、食経験のない食物への不安が先立ち、メリットとデメリットに対して幅広い意見を出し合うことは、なかなかできませんでした。そこで、初めに専門家による話題提供を受けてから、「生産者」「ポテトサラダ製造販売業者」「学校給食調理人」「消費者」の立場になったつもりで、考え、話し合う「ステークホルダー会議」を企画しました。
    これまで、くらしとバイオプラザ21では田の字法といって、ある題材について「現在、よいと思う点」「現在、不安である点」「将来、よいと思うこと」「将来、心配なこと」を各人が4つの四角(田の字)に書きこんで、それをファシリテーターが読み上げ、話し合う、ワークショップを行った経験があります。

    「最新ゲノム編集のお話とワークショップ」

    田の字法では、参加者全員がその題材について、ある程度、知っていなくてはなりません。もし、一般市民を対象にゲノム編集技術をとりあげる田の字法を行うとしても、ゲノム編集技術は最先端で、理解も難しく、認知が低く、時期尚早と考え、ステークホルダー会議を考案しました。「ステークホルダー会議」では、グループディスカッションに入る前に、専門家による話題提供を受け、参加者が一定の予備知識を持てるようにします。

    3回のステークホルダー会議

    次の3回のステークホルダー会議では、ゲノム編集ジャガイモをとりあげました。

    • 2018年6月4日 於 大阪府立大学 対象 奈良市立一条高校 1年生
    • 2018年11月11日 於 テレコムセンター 対象 一般市民
    • 2019年11月25日 於 コープこうべ健保会館 対象 コープこうべの役員・職員

      https://www.life-bio.or.jp/topics/topics770.html

    3回のステークホルダー会議において4つの立場に立って、話し合った結果、ゲノム編集ジャガイモの利用についてYESと判断したグループの合計は15、NOと判断したグループの合計は9でした。その理由も様々で、講師を含めて参加者はいろいろな初めての意見を聴くことができました。

    表 3回のステークホルダー会議におけるグループの意見

    役割 グループの数
    YES NO
    消費者 2 4
    生産者 4 2
    ポテトサラダ製造販売業者 4 2
    学校給食調理人 5 1
    合計 15 9

    各回の結果など、詳細は以下の特別寄稿全文をご覧ください。

    「ロールプレイで一般市民から多様な意見を引き出すー『ゲノム編集』をテーマに複数の視点で考え議論する」pdf

    ステークホルダー会議のこれから

    ステークホルダー会議を成功させるには、前半で行う情報提供がとても重要です。この3回のステークホルダー会議では、開発者の大阪大学大学院工学研究科 村中俊哉先生が、技術だけでなくポテトサラダ企業への取材を含めて、広い視野でお話してくださり、参加者の理解が進みました。
    グループディスカッションを円滑にすることも必要になります。今回は、ファシリテーションに慣れている人が、各グループにひとりずつ入って話し合いを促しました。
    今後、ステークホルダー会議をいろいろな場所で開いたり、いろいろなテーマを扱ったりしていくには、もっと工夫をしなくてはならないと考えています。扱うテーマが参加者にとってどのくらい身近であるかをよく考えながら、互いにリラックスして自由に考え、話し合えるワークショップ手法を、これからも開発していきたいと思います。

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