くらしとバイオプラザ21

ニュース

食のリスクコミュニケーション・フォーラム2025 第1回:「機能性表示食品の安全性をどう担保する?」開かれる

2025年4月26日、食の安全と安心を科学する会(SFSS)主催のリスコミセッション「機能性表示食品の安全性をどう担保する?」が開かれました(於 東京大学農学部 中島董一郎記念ホール)。

会場参加者のみなさん

会場参加者のみなさん

質疑応答タイム

質疑応答タイム

「機能性表示食品等の今後の問題点」
岐阜医療科学大学 教授 宗林さおり氏

1.小林製薬の問題から1年

保健機能食品は特定保健用食品(トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品、その他のいわゆる健康食品合わせて「いわゆる健康食品」がある。この「いわゆる健康食品」の安全性は健康被害情報の収集は厚労省の所管。そして、表示は消費者庁。
サプリメントは天然とは組成が異なっていると定義されている。トクホは約1,000件あり、サプリメント形状ではない。今は機能性表示食品がこれを数倍上回る売り上げ。
2024年3月22日に発表された小林製薬紅麹製品の78,000個回収された。倉庫の50万個は廃棄。
最終的に大阪の報告書では死亡者は16人、未回復は約800人とされている。。厚労省WGや大阪府などが今も追跡中。そんな中で、2024年4月、厚労省の薬事と食品のうちの「食品」の所管が消費者庁に移管された。

2.機能性表示食品をめぐる検討会

検討会は短期間に多くの関係者ヒヤリングを行い、2024年5月末に報告書をまとめた。

  • 原料品ロットを見ると、2023年6~8月にプベルル酸が混入したらしいことがわかった。
  • 錠剤・サプリに製品化するのは最終工場。最終製品でパターン分析をする(目的以外の場所も全てを見てピークがないかを調べる)。今回新たに日本健康食品工業会が設立されたが、各業界団体で連携し、届け出者・原料工場・最終工場においてそれぞれ、パターン分析を添付してもらいたい。
  • GMPの実施が決まった。1年半の猶予がある。現場は大変。GMPの監視は消費者庁で直接担当、同時に機能性をうたう表示が適切かをみていく。
  • 健康危害報告収集が義務化され、手順書も整備された。
  • 企業からの報告が保健所に届き、厚労省に集められる。被害者から消費生活センターにあがるルートもある。医師が診断し、企業は医者にヒヤリングする。同じ銘柄で2件以上の軽い健康被害が出た時、重症は1件でも報告義務がある。医療現場では異常値が出ても症状改善が目的で、原因物質解明ではない。健康被害の臨床情報は個人情報保護法上患者の同意書も必要になる。よって企業が報告するのは意外にハードルが高い。
  • これまでの健康被害収集をさかのぼって調べたが、この制度開始後はゼロだった。

3.GMP導入

  • 製造工程管理(GMP)を導入して最終工場で注意しても原料が重要。最終工場に入れる原料の品質に関するデータを記録すること。
  • 分析パターンで、あるべきでないところにピークが出ていないかを見てほしい。届出者が分析パターンをもって、原料工場や最終工場にこの品質を守って製造してもらえるようにする。こうしてロットの管理をちゃんとやってもらいたい。
  • 多くは海外の原料をつかっている。情報が揃っていないかもしれない。

4.消費者

  • 機能性表示食品なのに、「血圧を下げる」を大きく書いて大事なことを小さく書くのでは消費者に伝わらない。
  • 利用者には、トクホと機能性表示食品の区別がつかない人が多い。機能性表示食品番号を製品表面に書くことで理解が進むことを期待。

5.機能性表示食品の見直し

  • 機能性表示食品制度も開始して約10年。機能性成分の摂取目安量を決める時期ではないか。

「消費者からの有害事象に関する自発報告の意義」
福島大学食農学類 種村菜奈枝氏

消費者からのいわゆる「健康食品」の摂取に伴う健康被害に関する情報は、医療機関や事業者から保健所を経由して厚労省に報告される。2024年9月以降、機能性表示食品の届出者及び特定保健用食品の製造業者等に対して、機能性表示食品等に起因する健康被害に関する情報の提供が義務化されたことに伴い、益々、報告の重要性が注目されている。
いわゆる「健康食品」の健康被害も実際には、日常であるような軽度な症状(例:頭痛や腹痛等)では医療機関への受診に至っていない場合があり、そのため、健康被害の実態は把握には限界がある。どうやったら、状況把握ができるのか。米国では、医薬品と食品とでは健康被害の収集の考え方が異なっていて、食品では、迅速かつ広範な安全性モニタリングの確保を優先している背景がある。判断基準のばらつきから重要なシグナルが見落とされる恐れを回避するため受領したすべての重篤有害事象報告を因果関係の有無にかかわらずFDAへ提出することとなっている。また、専門的な医学的な判断や因果評価の義務を課さず、簡便に通知だけ行わせることで報告数の確保を優先した趣旨を踏まえ、まずは情報を集めようという「リスクベースの考え方」という発想に基づいたシステムと言える。

我が国における、健康被害の報告制度の深化のためには、次の4つの鍵があると思う。
(1) 報告されるべき健康被害の潜在化
(2) 健康被害の報告先の認知向上
(3) 健康被害の情報共有のスピード
(4) 集積した健康被害の解析技術の開発

【まとめ】

食品安全に関わるステークホルダーの連携の上に健康被害の情報収集体制を構築することが重要。ノイズを最小化した社会システム構築のための検討が継続的に必要である。

「紅麹問題を受けた機能性表示食品制度の変更点と事業者・消費者の安全への向き合い方」
読売新聞東京本社生活部 加藤 亮氏

トクホの方が歴史は長い(登録数は約1,000件)。これに対し機能性表示食品は約7,000件。2020年ごろから市場規模も機能性表示食品がトクホを上回り7,000億円を超えた。
紅麹の健康被害が起こっても機能性表示食品の市場はまだ伸びそう。
2024年3月23日に小林製薬の発表があり、3月26日に一人の死亡が報告され、各社報道合戦が始まった。小林製薬の問題点は次の二つ。

  • 最初の医師からの健康被害報告から公表まで2か月かかった。この2か月間にも摂取し続けた人がいたのではないか。機能性表示食品の報告義務はないので違法ではない。
  • 衛生管理。落ちた原料を使ったという情報も出てきた。小林製薬の問題と制度上の問題があり、大事件になっていった。

消費者庁の対応は早く、5月中に報告書公開と決めて取り組んだ。
報告は義務化がされていなかったこれまでを遡って消費者庁が調査したところ、82件しか報告されていなかった。食中毒以外の健康被害には報告義務はない。2024年9月から報告が義務化され、GMP導入も2026年9月から義務化される。

〇報告義務の課題

  • 医師・薬剤師への協力要請の不十分さ。義務化するからにはスキームが必要。
  • 報告件数が十分にないと検証が難しいし、多すぎると保健所も対応できない
  • 行政への報告を望まない消費者、医者嫌いの消費者の存在

〇GMP義務化

  • 予算要求の半分の1.6億円しか予算がつかなかった。担当6名で対応できるのか。
  • 海外からの原料が多い中、原料の品質をどこまで見られるか。原料工場は対象外でいいのか。
  • 立ち入り検査はどれだけ機能するのか。消費者庁は立ち入り検査の経験がない。
  • 事業者への安全文化の教育。事業者は、成分を濃縮すると、通常では食べられないような量を摂取できるのが「機能性表示食品」だという認識を持つべき。
  • GMPを導入してまで機能性表示食品を続けるか。「いわゆる健康食品」に流れるか。

〇その他

  • 届出番号が製品表面に書かれる。消費者はそれをどこまで理解するか。
  • 事業者は機能性表示食品への信頼回復を目指し、薬を飲みたくない消費者のニーズがある中でGMPを徹底し、ルールに則った広告をしてほしい。
  • 消費者の中には、病気の緩和のために健康食品を摂取している人が2割いる。不調になったらすぐやめてかかりつけ医に行ってほしい。
  • 行政には消費者教育に力を入れてほしい。消費者庁作成の「社会への扉(契約について)」は効果を上げているので、健康食品の教育もやってほしい。
  • サプリは店頭で販売しているので、医者よりも薬剤師、栄養士の報告義務も考えるべきではないか。

パネル・ディスカッション:「機能性表示食品の安全性をどう担保する?」

参加者(会場参加者とオンライン参加者)で話し合いをした後、全パネリストからのまとめが以下のとおりありました。

  • 宗林さん
    「自分が気になっている症状や持病の薬の上乗せでサプリを摂取するのが人情。しかし、薬を飲んでいる分野と重なるサプリはやめよう!」
    「やせるための個人輸入が心配。医療ダイエット、やせ薬は歴史的に健康被害が起きていることを覚えていてほしい」
  • 種村さん
    「子どもにサプリを与えている人がいることは問題」
    「医師、薬剤師などの専門家への教育が必要。卒業後の職能スキルアップ、専門家をサポートできる環境も必要」
  • 加藤さん
    「品質管理は一生懸命にやっていても問題が起こる。消費者教育が重要!」