「学校給食衛生管理基準」見直し
2025年7月1日の食品安全委員会において、「学校給食衛生管理基準」の見直しが始まることがわかりました。私たち、くらしとバイオプラザ21では、食品添加物不使用表示ガイドラインに関する情報発信をきっかけに、本基準に注目してきました。
「学校給食衛生管理基準」とは
「学校給食衛生管理基準」は、学校給食法(昭和29年法律第160号)第9条第1項の規定に基づいて平成21年4月1日から施行されました。学校給食を実施する教育委員会等の責務が定められたもので、食に関わることですが、厚生労働省や食品安全委員会ではなく、文部科学省の所管です。
この中には、学校給食施設、設備や機器の整備及び管理、調理の過程等における衛生管理、衛生管理体制、日常及び臨時の衛生検査、記録の保存期限などについて書かれています。
食品添加物の利用に関する記述
その中で、私たちは以下の部分に注目してきました。
それは、「第3 調理の過程等における衛生管理に係る衛生管理基準」の
「1の(2)学校給食用食品の購入」の「③食品の選定」の項です。その2番目の項目に「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品」を使用しないように、という主旨の記述があります。私たちは「有害若しくは不必要な」という食品添加物を形容する言葉に違和感を持ってきました。なぜなら、食品添加物には役割があって、長く安全に利用されてきたことを国が認めているからです。
このことについては、令和2年3月31日に公開された「食品添加物表示制度に関する検討会報告書」の「5.おわり」の中にも書かれています。それは以下のとおりです。
「検討会では、食品添加物の表示について理解を進めるために、食品添加物そのものに関しても普及、啓発を進めていく上で一つの問題提起がなされた。食品添加物の表示の対象範囲ではないものの、検討会の求めに応じて提出された学校給食衛生管理基準(平成21年文部科学省告示第64号)第3の1(2)③
二~中略~について、同告示により、食品添加物そのものに関する誤認が生じているのではないかとして、上記の普及啓発の重要性に鑑み、当該告示について改正を求める意見が複数の委員から挙がった」
誤解される食品添加物
食品添加物は、「味を良くしたり、色や香りをつけたり、有害なカビの発生を防いで、食品を長持ちさせたりするため」に、食べ物に使われています。食品安全委員会は、どのくらいなら毎日食べ続けても安全かどうかを科学的に調べて、用量・用法と共に食品添加物の安全性を認めています。認められた食品添加物以外は出回っていません。
一方、「食品添加物を使っていません」、「食品添加物を使っていないので安全です」などの表示を見かけることがあります。このような表示を見た人は、食品添加物が健康に良くないから不使用であることが示されているのだと思うかもしれません。同じように、学校給食衛生管理基準で「有害若しくは不必要な」と形容されていると、有害な食品添加物が不必要に使われる場合もあると感じる人がいるかもしれません。
例えば、消費者庁の令和5年度調査(N=10,000)によると、「食品添加物は、安全性が評価されたものや我が国において広く使用されて長い食経験のあるものとして国に認められたものが、食品の加工又は保存の目的で使用されていること」を「知らない」と回答した人は50.2%です。口に入るものですから、「人工的」というより「自然」であるほうが、心地よいということもあるかもしれませんが、食品添加物のお蔭で停電している地域に食料品を送れたり、安全に一定期間、食べられることで食品ロス削減にも役立ったりしているのです。
また、食品添加物を健康に良くないものだと思うようになったきっかけについて問うアンケートの結果が、令和2年の「食品安全委員会が行うリスクコミュニケーションに関する意識調査報告書」(N=3395)の中で報告されています。回答者の24.3%人が、「食品添加物不使用」という表示を見たので不安を感じるようになったと回答しています。このように、食品添加物そのものが安全かどうかという情報よりも、不使用であることを強調する表示が消費者の意識に影響を与えています。同じように、学校給食という子どもたちが初めて家庭外で友達や先生と食を共にする場面で、「有害若しくは不必要な」という表現から、食品添加物への誤解が生れるのではないかと懸念します。
学校給食で友達と食事をする中で、偏食がなおった経験を持つ人は少なくないでしょう。卒業しても、「あのメニューが好きだった」というような楽しい思い出話にも出てくる学校給食。今回の見直しによって、子どもたちに愛され、その健康維持・向上に貢献する学校給食が、食品の安全性の考え方や衛生管理を学ぶ場としても重要であることが十分に理解され、より良い方向に進むように、これからの議論を見守っていきたいと思います。