TTCバイオカフェ「いのちの図書館“バイオバンク”と世界のルール“ISO”」
2025年12月11日、TTCバイオカフェ「いのちの図書館“バイオバンク”と世界のルール“ISO”」を開きました(東京テクニカルカレッジより配信)。お話は一般社団法人日本生物資源産業利用協議会(CIBER) 代表理事 池田 純子さんでした。
池田純子さん
配信風景
主な内容
1.バイオバンク
骨髄バンク、アイバンクなどは患者さんを助ける「バンク」としてよく知られていると思うが、今日、取り上げるバイオバンクは研究用試料を集めるバンク。手術や生検で得られた組織、検査の時の残検体(血液、尿など)を分けてもらったり、検査の時に少し多めに取らせてもらったりして集めている。
日本最大級は、「東北メディカル・メガバンク」。2011年の震災後、東北復興計画の一つであるバイオバンク計画が始まり、東北メガバンクは2012年よりスタート。15万人の住民コホート。ゲノム・オミックス解析、メタボローム研究などのほか、試料提供の各種サービスをしている。
現在、国内にはバイオバンクが50施設以上ある。日本のバイオバンクが協力して活動する国家プロジェクトもある。
海外で大きいのは、UKバイオバンク(2006年スタート)では40~69歳のボランティア50万人の血液、MRI画像データ、身体測定値などを30年間蓄積する。世界中の研究者が提供依頼申請可能で使い勝手がよくて人気がある。
「バイオバンク」の役割は、集めた試料を研究に回し、医薬品開発などによって実用化し、健康医療増進につなげること。実用化して得られた資金はバイオバンクの充実に当てられる他、貴重な研究資源となる。具体的には、研究協力者(患者・ドナー)の同意を得て、試料・組織・血液などを集めて加工、保管管理を行う。それらを分析した情報も所管する。情報や試料を分譲提供し、研究開発に使い、その成果が患者さんに返っていく。バイオバンクの最大の役割は試料・情報の品質管理プロセスだと思う。
東京大学医科学研究所のバイオバンクジャパン、NCBN(ナショナルセンターバイオバンクネットワーク)、筑波大学、岡山大学などのバイオバンクも有名で人気が高い。
2.ISO
ISOとは国際標準化機構のことで、商品やサービスにおける国際ルール(ISO規格)を策定している。ISO規格は「世界共通のものさし」として用いられ、国際取引を円滑にして信頼性を高める。
ISOには世界の175団体が加盟している。各国に取りまとめ機関があり、日本のISO規格のボスは日本産業標準調査会(JISC)で経産省が所管している。1国に取りまとめ団体は一つ。
例えば、紙の大きさのA4版は日本や欧州で使われている。アメリカはレターサイズの大きさの紙を使う。このようなA4、B5という世界の共通規格はISO216に定められている。ISO 216のおかげでコピー機の仕様を決定することができる。
日時の表記にもISO規格がある。ISO8601で定めた書き方は2025-12-11または20251211。だが、アメリカは12/11/2025の表記が好き。それを否定するものではない。
ISOの中には既に26,000件の規格文書がある。ISO規格には全生活の商業分野が含まれるといっても過言ではない。
大人気なのはISO9001で品質マネジメントシステムに関するもので、ISOの顔とも言える。ISO27001の情報セキュリティも人気。ISOのサイトにも人気ISOとしてピックアップされている。その他にもISO13485(医療機器)は薬事承認に必要だからよく使われる。最終アップデートの年が番号の次に書かれていて、見直されてからどのくらい経っているかがわかる。一方、皆が使っていない人気のないISOは淘汰されていく。
ISOの組織
ISO規格は各国のとりまとめ機関が提案し、何度も議論して投票する。大きい国も小さい国も1票持っている。日本の代表はJISC、アメリカはANSI、イギリスはBSIというように。
日本国内にはJIS(工業分野)、JAS(農業分野)がある。それぞれ本省(経産省、農水省)の承認が必要。JISで決まっていることとISOはピッタリ同じとは限らない。先に日本のJISがあって、ISOが後にできると相違点が生じることもあるし、ISOがもとになってJISができるとピッタリ同じになることもある。その違いについてはJISC(と関連団体)が管理している。
ISO規格の決め方
ISOの下に専門委員会(Technical Committee:TC))がある。例えば食品はTC34が担当。
各国に各TCを担当する団体がある。医療用輸血装置を担当するTC76に関することは日本医療機器テクノロジー協会が担当しているなど。
Business界、大学教員などはISOの動きを注意して見ている。国内外からISOのTCに提案し、何度も投票して改良してISO文書が数年かけて完成する。ある言葉がどの国にも同じように理解されるように用語を定義したり、解釈や運用を整理したりしていく。それによって品質、安全性、再現性などが保証される。
英語ではスタンダード、スタンダーダイゼーション。日本語では、スタンダードは規格あるいは標準と訳される。スタンダーダイゼーションは、標準化と訳されている。が日本語では、文脈によって標準と言ったり規格と言ったりしている。どちらもスタンダートに関連する言葉だと理解してほしい。
バイオバンクにもISO標準がある。ISO 20387として2018年にできた。直訳して日本語版ができている。ISOができたあと、バイオバンクのJISも後からできた。JISはISOよりこなれた日本語で書かれていて読みやすくなっており、ISOと同じ番号でJIS Q 20387となっている。目的、対象、要求事項のほかに分譲するときの公平性が定められているのはバイオバンクの特徴。生体試料の一生をめぐるステージの品質管理がすべて書かれているとも言える。
ISO規格をつくる
それぞれの専門分野で必要になったとき、「エキスパート」になって規格開発を提案し、ISOを作る。自分の施設のレベルを証明するためにISOを取ることもある。ISOへの関わり方はそれぞれ。
私の属する団体のCIBERでは、「バイオリポジトリ技術管理士認定試験」を提供しているが、ISOの理解度についての問題も多く含まれるのが特徴。
今日は特にISOを作る場面の紹介をしたかった。ありがとうございました。
